ゆーまにわリレーブログ

ゆーまにわのメンバーが毎週交代で更新中。

第44回 周回遅れ

僕は降りしきる雨の中、
消え入りそうな自分の存在を声高に主張するかのように
雨音をたてながら通り過ぎる車を横目に、
一人歩いている。

「騒々しいな。」
以前、そうつぶやいた二回り下の後輩に
ついイラついてしまったことがあった。
「昔はもっとうるさかったんだよ。」
言い訳がましくひとりごとをつぶやく自分の姿に、
もっと嫌気がさしてくる。

『車」と呼ばれるその物体は、
もはや子供のころの僕が知っているそれではない。
1年前にロードX社が発売を開始した
最新型の『超電導電気自動車』。
その訴求力はすさまじく、
いつの間にか主要道路はそれ仕様になっていた。
強力な磁力を誘発する素材が敷き詰められた
『道路』の上を、超電導現象を利用して
車体を数センチ浮かせながら進む。
もはや走行音などは全くなく、
雨風を切り裂く音がわずかにする程度だ。

以前、当時の新型ハイブリット車の走行音が静かすぎて
「耳の遠いお年寄りが気が付かなくて危ない。」
と、大きな問題になったこともあったらしい。
だが、もはや強力な磁力が内在された
『道』の上を歩くもの好きな人はいないのだから、
この無音にも近い静寂は
問題にはならなかったんだろう。

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時代は常にイケてる最先端のものを歓迎した。
その昔apple社のiPhone
10年足らずで世界のスタンダードとなり驚かれたが、
ロードX社の1年での世界制覇には
スティーブ・ジョブズもびっくりだ。
もっとも彼なら
「馬鹿言うな、ムーアの法則を知らないのか。」
と言うかもしれない。
少なくとも、この急激な社会の変化を茶化しながらも
もはや当たり前のものとして受け入れつつある自分に、
一番びっくりだ。

送発電技術の発達で電力コストがゼロになったのは、
いつのことだろうか。
今や家庭用電力は無料化され、
法人用電力ももはやコストとは呼べないほどの値段だ。
「やった。夏はエアコンつけっぱなし。
冬は電気ストーブとこたつのパラダイス。
最高じゃん。」
今思えばそれは、ささやかな歓喜にすぎなかった。

慣習と常識から先生や両親は環境問題という
懐刀を振りかざして最後の抵抗をしていたけれど、
もはやそれは黒船に対して刀と竹やりで抵抗した
幕末の武士でしかなかった。

ほどなくして、暴走する人類への
太陽系生命体最大の抵抗である地球温暖化も、
世界首脳会談閉幕記者会見で議長が言った
地球温暖化は終わりました。」という一言に、
あっけないほど簡単に屈した。

どういう仕組みなのかはよくわからないけれど、きっと
ものすごいスピードで進化し続けていた科学技術が、
地球の渾身の悲鳴に対しても処方箋を見つけてしまった
ということなのだろう。

科学技術、科学技術。

もはや地球そのものも屈するほどの影響力を持った
科学という怪物は神の領域に達したと言われているが、
どうやら怪物自身は神などという
所詮人間が作りだした概念には興味がないらしい。
もっとも、その化け物を生み出しているのは人間で、
本当の化け物は人間自身なのだろう。

プリント基板

「その超電導電気自動車っていうのはさ、
つまりはリニアモーターカーの原理だよね。」
そう言ったときにぽかんとしていた孫の表情を
ふと思い出して、また自分が嫌になる。

「おまえ、カセットテープも知らないのか。」
幼い頃僕にそう言ったおじさんの表情には、
どこか時代に迎合しない
カッコよさと誇らしさがあった。
「カセットテープはな、
イマドキのなんちゃらデスクよりもな、
いい音が鳴るんだよ。」

残念ながら文字通り刻々と変化する現代社会では、
時代遅れの人に『アナログ人間』などという称号を
与えることもないらしい。
ただの、『時代遅れ』だ。

僕はただ順調に歩んできた気でいたのだけれども、
持久走で周回遅れの子を抜かしていく
スポーツ万能なクラスの人気者さながら、
『時代』というものが
高速で僕の横を過ぎ去っていってしまった。

さえない周回遅れの子か。

『時代』はいつの間にか手の届かないところにいて、
雲の上の存在となっていた。

回し車

 

キー、ギギー。

懐かしい音に振り返ると、
タイムスリップしてきたのかと思うほど
昔から変わらない友人の姿があった。
彼はいまだに自転車なんていう遺物を乗り回している。

「このご時世にはさ、
どこにも自転車のパーツなんて売ってなくてさ、
ホントに修理費がばかにならないんだよ。
イマドキのやつを買った方がまだ安い。
ホントにいやになるよな。」

それなら自動運転二輪車を買えばいい。
そう言うと、彼はいつもこう言う。
「自転車はな、
イマドキのなんちゃら二輪車よりもな、
乗り心地がいいんだよ。」

自転車イラスト

 

そうか。

周回遅れも友達と一緒に走っていれば
そんなに悪いものでもないのかもしれない。

いつの間にか雨は止み、雲間から太陽の光が覗く。
僕はとっくにサポート対象から外れていて
もはや全くスマートではないスマホを取り出して、
最寄りのカフェを検索した。
「どうだい、たまには
イマドキの全自動無人カフェにでも行ってみるか。」
「悪くないね。」
またどこかに不具合が生じたらしく、
お気に入りの自転車をいじりながらこちらも見ずに
彼はそう答えた。

たまには歩いていこうか。

『時代遅れ』も、悪くない称号だ。

 (終)

 

次回もまたまた新メンバー

さて、次回のリレーブログは、
またまた新メンバーのゆいなちゃんです。

彼女もかなり面白い子です。

お楽しみに。